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ブログ小説「女」

 そのセクシヤルな女は私の前に立っている。その過激たる服装は、谷間が見えるほどにその豊満な胸を広くはだけさせ、そのシヤツは女の体に合わないほど小さく、痩せ細った腹を曝け出し、腰にはズロオスが覗けそうなほど短いスカアトをまとい、その刺激的かつセクシヤルな容姿には思わず女である私でも見とれてしまう。驚くほどスマアトな腰まわり。それなのに大きく形の綺麗な乳房が2つついておるその女の身体は私をうっとりさせる。きっとこの女は何人もの男と「遊戯」を楽しむのだろう。神から幸せな身体を授かった幸せな女だ。それに比べると私は何だ。胸に在ればよい肉がわざわざと腕にまとわりつき、谷間どころか虫に刺されたときの腫れ方のような胸をしている。所謂「くびれ」なるものは存在せず、肩から足までストレエトにのびる身体である。私がため息をつくとその女はくるりと後ろを振り向き、私と目が合ってしまった。まだ若い小娘だ。私は慌てて目をそらしたが、小娘はジイとこちらを見ている。私は何故だか無性に恥ずかしくなった。赤面したまま電車は走り続け、小娘は次の駅で降りた。私は少しほっとしたが、小さな胸はしばらく動悸を続けていた。

 家に帰ると彼が既に来ていた。彼に妻がいることを知ったのは十日ほど前のことである。私のそばに居てくれる者は彼しかいないので私はそれを受け入れたが、彼は私と縁を断つつもりでその話を切り出したと云うことを私は知っている。しかし気の弱い彼はそれ以上何も言えなかった。彼に子供が出来たのだ。丁度妊娠がわかった頃くらいだろう、彼が私と寝なくなったのは。もともと彼は性欲が強い方ではなかったが、その頃以来一度も私と寝なくなった。内心私は安心した。寝なくなったのは私のせいではなかったからである。斯くして私はすっかり割り切ってしまい、これが人生だと思うようになった。

 「今日で最後にしたい」と言うなり彼は私を押し倒し、服を脱がし、強引に胸を揉んだ。乱暴だった。「寝る」と云うよりも「レイプされる」と云う方が正しいのかも知れない。其処に在るのは愛ではなく男の欲望であった。激しく私を暴行した後彼はそそくさと家を出て何処かへ往ってしまった。哀しみや虚しさを感じることもなく、私はその晩独り裸でぼうっと部屋の隅を見つめて朝を迎えた。 何年もの間恋愛恐怖症になっていた私を救った彼が、とうとう私を捨てた。男を見るのが怖くなった。街往く男共は私をみな軽蔑している。男は女と云うものをヴイジユアルで判断し、女と云うものを「寝たいか寝たくないか」の二種類に分類し、たまにお情けで馬鹿な男が私を選んでも飽きると棄てられるシステムになっているのである。私は男のニイズに答えられない人間なのである。男はそんな人間を見ると嘲る獣なのである。

 私は男が怖い。長く勤めていた郵便局の職も棄てた。私は買物以外で外出をしなくなった。買物もわざと人の居ないような夜の遅い時間にすませ、なるべく男を見ないようにした。暫くは結婚資金の貯金を崩して暮していたが、幾ら節約をしても二ヶ月後には底をついた。食うあてが無くなった頃に私は妊娠が発覚した。

 金を作るため、彼がプレゼントをしてくれたネツクレスを質屋に持って行った。彼がくれたのは高価な物ではなかった。それでも三日は生き延びることが出来るだけの金を手に入れた。帰りにあのセクシヤルな小娘を見かけた。私は胸の鼓動を抑えられず小娘の後をつけて行った。小娘が駅に入って行くので、私も今しがた手に入れた金で切符を買い、夢中になって小娘を追った。小娘と同じ電車に乗り、私は亦その豊満なる乳房に魅了された。手に汗をかき、恐ろしい形相でその豊かな胸を凝視する姿はそれだけで不審者と云うのに充分であったが、次の瞬間私の両手はしっかりと小娘の二つの乳房を掴んでいた。

完。