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就活デート2

 会田社長は、言葉も丁寧、表情も穏やかで、見た目の印象はとても良いのだが、やっていることはむごかった。新卒採用の最終面接で、女性とデートして来い、相手は自分で選べ、である。

 一通りの面接は練習してきた正だったが、こんな面接はもちろん初めてであった。ううむ、意図が読めない。

 女性はざっと見て20人近くいる。とても子供っぽく見える女性、モデルのように顔立ちもスタイルもいい女性、地味すぎる女性、ぽてっとした体系の女性、ギャルっぽい女性というよりもただのギャル、それから40歳近くのおばさんに見えるような女性もいる。ここから、好きな女性を選べというのだ。それで、僕の何がわかるというのだろうか。年下で見た目はギャルっぽいけど実はドMな女の子が好きだという僕の趣味を知って、何になるんだろうか。それと、この女たちは一体何者なのか。社員?部外者?

「どうしても選ばなくてはいけませんか?」

正はそう尋ねた。優柔不断、と思われてしまうリスクを負って。

「どうしてもということはありません。好みの女性はこの中にいませんでしたか?」

冗談めかして社長が言った。

「素敵だなと思う女性は何人もいらっしゃいます。いえ、みなさん素敵な女性方だと思います。ですが、学生に女性を選ばせるというやり方は私は好きではありません。」

それを言うのはとても恐ろしいことだった。言葉の選び方を間違えたと思った。会社が示したやり方を、私は好きじゃない、と言ってしまったのだ。

「そうですか、じゃあ私が適当に選んじゃいましょう!ちなみに、どうしてこのやり方が気に入らないんですか?」

「女性側にとっても、学生側にとっても、不公平な印象を与えるやり方だと思うからです。女性側からしてみれば、ただの学生とはいえ、やはり自分が選ばれないといい気持ちがしないことと思います。それから、学生にしても、選択権が与えられて一見いいようにも感じられますが、実は過大な裁量権が与えられることで嫌なプレッシャーを感じる原因にもなるかと思います。面接の本番で自分を見てほしいのに、女性を選ぶ段階ですでに自分は試されている、と考えるとやはりいい気持ちがしないものです。」

正は論理的に自分の言っていることが合っているのか、わからなくなっていたが、社長はなるほどとだけ言って、一人の女性を指名した。

 森田美佳。残念ながら年下でもなければギャルということでもなさそうだった。長い黒髪に色白の肌が対照的だった。クリーム色のパーカーに中はグレーのシャツ、下はデニムのミニスカートと、レギンスを履いていた。背も高く顔立ちも大人びた印象なのに、ファッションが高校生みたいで似合っていないなぁと正は思った。

「面接の開始・・・いやデートのスタートは午後4時です。待ち合わせ場所は、今決めちゃってください。そこで待ち合わせして、帰りは二人で一緒にここまで、この会議室まで、帰ってきてください。4時スタートだから、6時半までに帰ってくるようにお願いしますね。はい、じゃあどこで待ち合わせますか?ちなみに新宿からそう遠くないところにした方が、長時間デートできると思いますよ。高尾山で待ち合わせ、なんつったら行くのも帰るのも大変ですからね、ハッハ。」

新宿からそう遠くない場所といったら、渋谷、原宿、池袋・・・それから、別に新宿でもいいのだけれど。

 だが東京の西側で生まれ育った正は、東京の都心部に全く疎かった。地方からやってきた田舎者や外国人観光客の方が、多摩地域に生息する人々よりもよっぽど23区事情に詳しかったりするもんである。多少遠くても、自分の知っているフィールドの中で勝負をしたい、と正は思った。渋谷のモヤイ像が何口のどの辺にあるのか、池袋のナンジャタウンが何の町なのか、全くわかっていないほど正が都会に疎いことを考えれば、待ち合わせ場所をJR吉祥寺駅北口改札前にしたことは賢い選択だと言えるだろう。以前吉祥寺のアイスクリーム屋でバイトしていたこともあり、吉祥寺にはわりと詳しい。

「じゃあ、まだ時間にも余裕がありますから、お互い自己紹介でもしといて下さい。待ち合わせ場所には二人バラバラに行くことになりますからね。わざとちょっと時間に遅れて、ゴメンゴメン待ったぁ?なんていうのも作戦としてはアリですからね。」

これもまた正を非常に惑わせる発言だった。

 基本的に何をやっても自由なのだ。だから困る。ひょっとして、リアル連絡先を聞いたりするのも、手をつないだりキスをしたり、その後に発展していくのもアリだというのか・・・?正の下心がわさわさと動くのが、自分でもよくわかった。

続く