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就職デート

 アイダ(株)は、ブティックや大型店舗を全国展開している、ここ数年で急成長してきたアパレルメーカーである。独自のブランドをいくつか持っており、低価格中心のブランドから高級志向に対応したブランドまで、幅広く手掛けている。

 広間正は、早くから自分の就職先としてアイダを狙っていた。安定?福利厚生?そんなもんにははなから興味がなかった。正が興味をそそられたのは、その風変わりな経営者と斬新な経営スタイルだった。社長が変わっているからいい、というわけではもちろん無い。正はこの社長を雑誌のインタビューか何かで知ったのだが、「自分と感性が似ているな」とその時思ったのだ。

 本当に、それだけだ。感性が似ている、と何となく思っただけで、正は「俺はこの会社に求められている」と思い込み、エントリーをし、選考を順調に進み、最終面接までたどり着いたのである。ここまでの選考は、まあ他の企業と大差の無い、ありきたりな内容であった。だが、最後は何かしら仕掛けてくるに違いない、と正は心構えしていた。

 

 そしてやはり、相手は仕掛けてきた。服装は、普段着で来て下さいということだった。スーツではなく、ビジネスカジュアルでもなく、例えば日曜日に恋人とデートする時の様な、そんな格好で来て下さい、と。 いきなりこれは少し戸惑った。スーツで来るな、ビジネスカジュアルで来るなと言われているのだから、それらを着ていった奴はその時点でアウトだろう。。。そうだろうか。だいたい俺はデートの時何を着ていってたっけ。彼女とは就活が始まってすぐ別れた。…ミカはレコード会社、通ったんだろうか。何で歌手になりたいわけでもないのにわざわざレコード会社に就職しなきゃいけないのか、正には理解できなかった。そしてそれは今もそうだ。正はつい余計なことまで心配していた。

 

 結局黒地に薄くチェックの模様が入ったチノパンに、上は白無地のロンティー、それからエンジのジャケットを羽織った。正は我ながらセンスない、と思った。だが上下ジャージ、という普段のスタイルよりはましである。

 面接は新宿本社ビル8階、会議室で行われる。と、正は思っていた。社員に誘導されて正は会議室に入った。雑誌で見た社長がスーツ姿で座っていた。表情は穏やかである。そして横には何故かカジュアルな格好の女性が何人も並んで座っていた。それから、正が座るべき椅子は見当たらなかった。立って話すのか。何なんだこの面接は…!? 社長はまず軽く挨拶をし、それからこの面接の説明をし始めた。

「申し訳ないけれど、この面接はあなたの座る椅子はありません。それから、私は今ここにこうしていますが、面接の本番が始まっても私はその様子は見ません。あ、まだ本番は始まっていないんですよ。この段階でわからないところはありますか?」

「すみません、ほとんどがわかっておりません。」

「ですか。ですよね。ではもう少し説明します。あなたにはこれから、ここにいる女性と2時間半デートをしていただきます。普通に、彼女とデートする感覚でデートしていただいて結構です。どこで何をしても構いません。ただし条件があります。女性を楽しませて下さい。自分一人だけ楽しんでいたんではダメですよ。それから時間はちゃんと守って下さい。つまり指定した時間にはちゃんとここに帰って来て下さいね。それ以外は何をやるのも自由です。」

やっぱりこの社長はおかしい。一体自分のどういうところが見られるのかわからないし、意地悪だなとも思う。さらにこの男はとんでもないことを言い出した。

「尚、相性というものもありますから、デート相手の女性は広間さんご自身で選んでいただいて結構です。」

…えっ。

続く