のなめブログ

noNameBlog

ぶるぶる(10)

木曜日。

決戦の日を翌日に迎えたこの日、私は非常にリラックスしていた。不安要素がないわけでもなかったが、「すべてがうまくいく」と信じていた。それは楽観的な見込みではなく、やってやるぞという自信に満ち溢れた心のあらわれなのだった。

一時間目が始まる前に、クラスのみんなの要望にこたえて席替えが行われた。私にとって居心地の良かった窓際の席は山口という今人気の若手芸人の片方みたいな奴に奪われてしまい、私は真ん中の前から2番目の席になった。こんな席ではろくに内職もできないが、これも一つの人生の試練だと思い、前向きに受け止めた。東谷くんと席が離れたので安心した。部活も一緒、クラスも一緒、席も近くでは一日中彼と過ごしているようでうっとうしい。

私の表情は今までに誰もみたことがないくらい自信に満ち溢れていた。まだ喋ったことのない後ろの席の広田くんに「英語の小テストっていつだっけ」ときいたり、隣で盛り上がっていた3~4人の女子の会話のなかに若干無理やりではあるが入り込んでいった。意識せずとも私は興奮し、気分が高揚していたのだ。

だんだんと私は調子を上げてきて、隣の子に「桑田先生って最近頭はげてきたよねー」と自分から話しかけに行くなど、いつもと比べてみると異常行動と言っても過言ではないような言動を繰り返すようになった。何だかこの調子で行けばコーヒーも飲めるような気がしてきて、休み時間に売店に行ってブラックの缶コーヒーを買って教室で飲んだ。ペプシコーラバヤリースを飲むときのようにがぶがぶいけるもんではないが、美味しくいただくことができた。そして、「教室で休み時間に缶コーヒーを飲む私、何かカッコイイ」と自分で思った。

今日すべての授業が終わるまでに、私は10人くらいの人と喋ったと思う。休み時間にペットの話で盛り上がった女の子に、放課後アドレスをきかれた。何だかとてもうれしかった。女子高生なんてたいがいはバカだと思っていたけれど、中にはいい人もいるのだ。

その日は一時間だけ部室に顔を出して、すぐに帰宅した。久々におじさんの店でバイトをしようという気になったのだ。今年の冬休みに働いたときに、酔っ払った若い客にセクハラまがいのことを言われたので、嫌になってそれ以降はバイトをしなかった。しかし、これからローターを手に入れ、ばら色のオナニー生活を営もうとする私が、酔っ払いのセクハラごときでめげるわけにはいかないと思ったのだ。

おじさんは久々に会う私を歓迎してくれた。相変わらず綺麗とはいえない店だったが、前に来たときよりも繁盛していた。「前回とメニューが変わってるから大変だよ~?」と脅されたが、実際はかつおのたたきが増えただけだった。

今回はセクハラを受けることはなく、むしろ私のほうから客をいじりにいったりして、そのやりとりにおじさんも思わず笑っていた。まるで私は快活で明るい女の子のようだった。

5時から10時までみっちり働いて、5000円を受け取った。それから絶品のまかないを食べた。おじさんに「ビールはどうだ、まだか?」と誘われて、いけるだろうと飲んでみたがさすがにビールはまだ早かったようだ。

私はおじさんに別れを告げて家に帰った。そして明日のことを考えた。入念に頭の中でシミュレーションしているうちに、私は眠りに就いた。