小学校のときの友達と飲んでいた。
国分寺で飲んでいたはずなのに、何故か武蔵小金井から歩いて帰っていた。
多分歩いて行った。
でもなぜ一駅歩いたのか、その間に何があったのか思い出せない―――
飲んでいたときの記憶と、武蔵小金井から一人で歩いて帰ったときの記憶は鮮明に残っている。
でも、一駅歩いたときの記憶が無い―――
僕は元のバイト先のコンビニエンスストアに立ち寄って、缶ビールを購入した。
すでに酔っ払っていたのに、缶ビールを買って飲みながら歩いて帰ったのだ。
石畳の情緒ある下り坂をゆっくりと、一歩ずつ降りていく。
生ぬるい空気に、時々冷たい風が吹く。
僕は缶ビールを一気に半分まで飲んだ。
次の瞬間、僕は足元の何かに気づかずに躓いて大げさにひっくり返った。
缶ビールがマフラーを濡らし、それが次第にしみこんで首筋に伝わっていくのがわかった。
足首が痛む。
僕はその場にしばらく倒れこんだままでいた。
頭もくらくらしていたし、目を開けると視界が右上回りにくるくると回っていた。
えらくのどが渇いていて、それに気温がとても低かったのでとりあえず移動したかったのだが、体中の筋肉はすでに眠っていて、動けなかった。
頭はなんとか働いていたのに、体は全く動けなかったのだ。
僕は何か言い訳を考えていた。
誰に対する何の言い訳なのかわからないけれど、僕がここに倒れているのは僕が悪いからではない、ということを第三者に証明したいのだった。
その状態が半分と、もう半分は夢の中で嵐と戦っていた。
”Riders On The Storm”
国分寺の駅を降りると外は嵐が吹き荒れていた。
僕とその小学校のときの友達は、家に帰れず困った。
するとその友達は、「そうか、嵐に乗ればいいんだ」と言って、嵐の中に飛び込んでいった。
僕は驚いて「ええ、何それ」と言った。
友達は「おいでよ、一緒に嵐に乗って帰ろうよ」と言った。
友達は吹き荒れる嵐の中、綺麗にバランスをとって宙に浮いていた。
僕もそれを見て嵐の中に飛び込んでいくと、お気に入りのハンチング帽がどこかへ飛ばされていった。
そしてバランスを崩して、すっこけた。
どうやっても友達のように安定した姿勢がとれなかった。
「体が軽すぎるんじゃないの」
「いや、嵐に乗るってね、そんな、馬鹿じゃないの」
友達は僕をおいて、嵐とともに帰宅していった。
僕は嵐との格闘を諦めて、駅構内に戻って行った―――
そんな夢だった。
何となく目が覚めたら若い男女2人組が、僕を心配そうに見ていた。
「水、いりますか?」
ギャル系カップルだったけれど、優しい人のようだった。
僕は水はいりませんと答えて、ついに体を起こした。
「あの、家に帰れますか?」
すいません、そんなに遠くないんで帰れますと僕は言う。
「あたし達帰れないんですよ」
一瞬えっと思い、もう一度えっと思った。
帰れないとはどういうことなのか、聞いてはみたけど彼らの説明はふにゃふにゃしていて内容がよくわからなかった。
でもとにかく帰れないのだという。
「朝まで一緒にいてもらえません?」
彼らと話しているうちに僕はすっかり目が覚めた。
きっぱりと断って、僕は彼らを置いて立ち去った。
家までの道のりはかなりゆっくり歩いて帰った。
家に帰って、温めた牛乳を飲んでいるときに財布をなくしたことに気がついた。
なんだかすごく、ばかみたいだ。
といういかにもフィクションらしいフィクション。
財布は無事です。