のなめブログ

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恐ろしく長い一日(5)

セックスをしたかったのだ、という説明ではどうも僕の本心を表せていないようであった。だが客観的に見ると、やはり僕は麻美とセックスをしてみたかったということになるのだろう。

「東谷くん、ちゃんと説明してくれないか」

と言ったのはおじさんであった。僕はちゃんと説明した。

「この間彼女ができたんです。麻美っていうんですけど。それでさっきまでデートしてたんです。今日はもしかしていけるところまでいけると思って、準備していたんですけど」

「いけるところっていうのは?どういうこと?」

「んーと、キスの後の展開です。まあつまりセックスです。」

「ふん。」

「それで、もう一歩のところで彼女は帰っちゃったんです。」

整理して人に話すと、妙に冷静になって、どうもくだらない一件のように思えた。まとめれば実に簡単な事件なのである。家に帰らず早く射精したかったので、外でしてしまったという、ただそれだけの話であった。それの、たまたま人に見つかってしまったバージョンである。 全て話し終えると、おじさんはとても穏やかな顔をしていた。

「東谷くん、いやぁ君若いね!」

「あー、はい。」

若いという一言で、この一件はもっと簡素にまとめられてしまった。だがおじさんに気に入られた。アリクイには麻美ちゃんを大事にしなさいと言われた。結局書類も書かされず、親や学校にも連絡されず、僕は解放された。去りぎわにおじさんに「早く結婚して、外じゃなく家でヤりまくれ」と囁かれた。乱暴な警察官だな、と思ったが素直にはいと言ってその場を後にした。2時23分だった。

もう帰ろうと思った。はじめから素直に帰って寝ておけば良かったのだ。僕は己の性欲を呪った。門限や麻美のせいにする自分はもういなかった。自分の汚れた意識が憎くてたまらなかった。取り調べで「セックスしたかった」と名言したことについてもまた激しく後悔した。セックスをしたいのではない、麻美と愛を育みたいのだと自分に言い聞かせていたではないか。だが自分には愛というものが何であるのか、わかっていなかった。結局自分の中で何が純真なものなのか、見当もつかなくなっていた。愛というものが仮に理解の範囲内にあるものだとしても、それが自己の性欲に対抗して、打ち勝つものかどうかというのはわからない。特に今度のような事件があるとまた自分を疑いたくもなる。また愛が性欲に打ち勝つものであるとして、それが純真なのかも謎であった。そもそも純真とはそんなに大事なものなのか、何故自分が純真にこうもこだわるのか、自分でもわかりかねた。自分は麻美のことが好きであるということには絶対の自信を抱いているつもりであったが、根拠が見当た

らなかった。恋に根拠など求める方が間違っているのだろうが、今の僕にはないと落ち着かないものになっていた。 僕はようやく自転車のスタンドを蹴り上げて、サドルに腰を下ろした。はぁとため息をつきながらゆっくりと帰り道を走った。