のなめブログ

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ぶるぶる(8)

新しいクラスでの私の席は窓際だった。その日は一時間目も二時間目も、ずうっと外を眺めていた。あんなところに木が立っていたっけ。あそこの家の屋根は昔から赤かったっけ。あ、3年生が体育の授業をやっている。今走っている人はサキさんに似ているな。授業の内容は全く頭に入って来なかった。

三時間目は体育で、私は今朝から生理がきたので見学した。こんな状態でバレーボールなんかしたら大変なことになる。三時間目と四時間目の間の休み時間に、東谷くんが話し掛けてきた。

「ジェリー今日何で見学してたのー?」

東谷くんは私をジェリーと呼ぶ。理由は、トムとジェリーのジェリーに顔が似ているからだそうだ。のぞみと言ったりジェリーと言ったり、私の友達は勝手なのばかりだ。

「んー何か頭痛くて。」

生理のせいか頭が痛いのは本当だった。でもやっぱりメインの理由はパンツの中だった。

「本当かぁ。大丈夫かぁ?部活はこられそう?」

英会話部というマイナーなクラブがあって、部員は私と東谷くんと2組の鈴木くんだけだった。部室にある色んなアイテムを使いながら、部員同士英語でコミュニケーションをとるという真面目系の部活だ。毎週土曜日はネイティブのピートが来てコミュニケーションの場に加わる。彼は教員ではなく、どこだかで学生をやっている24歳のイケメンだ。顧問の先生は年に一、二回しか現れないし、鈴木くんはサッカー部と掛け持ちしていて土曜日しか来ないので、普段は私と東谷くんが部室で(もちろん日本語で)だべる、というのが主な活動になっていた。だから私が部活に行かないとなると、彼も行かないかあるいは一人きりで英会話することになる。

「いや、部活には行くかな。おしゃべり出来ないくらい頭痛いわけじゃないから」

「そうかぁよかったよぉ。今日はとっておきのトピックスを持ってるもんだからさ!」

部室でだべるとは言っても、だいたいは東谷くんがべらべら喋るのを、頷いたり相槌をうちながら彼が満足するまで聞いているだけだった。私がいつもつまらなそうにするので、いつからか東谷くんは「今日の話題は面白いから聞いてっ」と言うのが癖になった。でも結局全然面白くない。私は東谷くんが嫌いなわけではないけど、うっとうしいチビだと思っていた。とにかく私の前でよく喋る。でも他の女子にはほとんど喋らなくて、男子の友達もあまり多くないようだった。

私は「じゃあ今日の話は楽しみにしてるね」と言ってトイレに急いだ。トイレの中で私は、何とか部室を使えないだろうかと考えた。それは校内にローターが持ち込まれるという大変リスクの高いアイディアだった。でも部室は校舎から離れたところにあるし、英会話部は人が少ないので見つかる確率は低い。それに荷物は外から見ても何が入っているかわからないようになっているはずだ。つまり例えば目撃者がいたとしても、「英会話部の部室に何か荷物が届いた」ということしかわからない。少なくとも開封するまでは。となると、邪魔なのは東谷くんだけだ。あのチビさえいなければすんなり受け取ることが出来るのに。

次の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴って、私はトイレをあとにした。