のなめブログ

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ぶるぶる(4)

兄の変化の理由は、その日の夕方に判明した。

兄はガールフレンドを連れて帰ってきたのだった。兄の髪型やファッションセンスがよくなったのは、都会に住むようになったからではなく、彼女が出来たからだ。おしゃれな喫茶店を知っているのも、気遣いが出来るのも、部屋が綺麗なのも、香水も、全部彼女が理由だったのだ。私はチョットつまらないと思った。

彼女の名前はサキさんといった。すらっとしていて、胸は私より小さかったが足が長かった。メイクをたくさんしていたが童顔だった。デニムのミニスカートがよく似合っていた。やっぱりしまむらファッションとは何かが違う。「兄妹水入らずの時間を邪魔しちゃってごめんね」と言っていた。じゃあこなきゃいいのにと思った。

サキさんは兄と同棲しているらしい。もちろん両親には内緒だ。それで私が上京するというのでその間だけ友達の家に泊まってもらって、私が帰ったらまた兄の家に戻ってくるという話だった。兄は私に気を遣わせないようにそれを隠していた。だがサキさんは寂しくてたまらなくなって、結局兄の家に来てしまったのだ。ラブラブカップルの間にやっかいな妹がずかずかと入り込んできたというわけだ。

「ごめん、黙っているつもりだったんだけど、会いたいって言うからさ...。サキのことはあんまり気にしないでいいよ」と兄は言った。あんまり気にしないでいられるわけがなかった。サキさんはさっきからずっとその細長い足を兄にすりすりさせているし、兄は猫みたいにぐにゃぐにゃしていた。東京にこなきゃよかったと思った。何だか兄が兄ではなく全く知らない人のように感じられて、一瞬にして居心地のよかった兄の部屋が異空間になり、妹だった私が部外者になった。私はこの部屋をすぐにでも出て行きたかったが、兄もサキさんも「気を遣わないでいいからね」と言うので、あからさまに気を遣って外に出るのは難しかった。

今日はサキさんが晩御飯を作った。私が作る料理よりも美味しくないと思ったが、「チョー美味しいですね」と言っておいた。サキさんもまた私が気を遣わないように色々と話しかけてくれた。サキさんは兄と同じ大学に通っているが、バイト先で知り合ったのだという。サキさんのほうが兄より一つ年上だが学年は同じだ。サキさんにもお兄さんがいて、その人はどこだかの会社に勤めていて大金持ちらしい。でも親に仕送りもせず遊びほうけている馬鹿兄貴だと言っていた。

だんだん私もサキさんに気を許していった。兄がトイレに行っている間に、「今彼氏いないの?」と聞かれた。「いないですよ。サキさん、色黒で腕毛の生えたスポーツマンか色白で細身のメガネ男子紹介してくださいよ」と言っておいた。「東京で紹介されたら遠距離になっちゃうでしょ」と言われてああそうかと思った。

サキさんは好感の持てる人だった。私はあまりかわいいとは思わなかったが性格がいいので、兄はいい女をつかまえたな、と思った。兄はこの人と暮らしているのだ。この人と喫茶店に行き、この人が作った晩御飯を食べ、この人と寝る。何回チューをしたんだろう。何回エッチなことをしたんだろう。

私は「あっ」と思った。さっきの装置はサキさんが使うのだ。サキさんが兄と大人な遊びをするために遣うのだ。私のにおいがついてしまっていたらどうしようかと少し焦った。

その日の夜は、私はベッドで、兄とサキさんは床で寝た。私はベッドの中で、兄とサキさんがしている姿を想像して気分が悪くなった。