のなめブログ

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ぶるぶる(2)

私は中野の街をぶらぶら歩いていた。駅前はごちゃっとしていて人も多かったけれど、少し外れれば緑も多く、味のあるお店やらただ古いだけのお店やら色々だった。古着屋、CDショップ、小物屋...。公園に行って、どろだらけの子供や洋服を着た犬を見た。まんだらけには行かなかった。

散歩から一通りの満足感が得られたので、私は兄のアパートに戻った。埃がたまるまで自分の部屋を掃除しなかった兄だったが、部屋はそんなに汚くなかった。私が来るから整理したのかなとも思った。玄関を入って左手に洗面所があり、その両サイドを風呂場とトイレが挟んでいた。右手には洗濯機、冷蔵庫、キッチンがある。洗い物が少しだけ残っていたけど、フライパンややかんなどは綺麗に片付いていた。

その向こうに兄の部屋があって、左側に大きめのベッドが配置してあり、右手には机とテレビ、それから棚があった。洋服はクローゼットとベッドの下に収納してあるようだ。小さなちゃぶ台の上にはティッシュと文庫本が置いてある。それ以外にこの部屋には目立ったものがなかった。

棚には本とCDがたくさん並んでいた。村上春樹重松清宮部みゆきが多かったが、夏目漱石とか川端康成もあった。CDは私の知らない洋楽ばかりだった。その中から面白いジャケットを一枚引き出してきてオーディオにセットして聴いてみた。がちゃがちゃとうるさいハードロックで全然好きじゃなかった。他にも何枚か聴いてみたけれど、全部よくわからなかった。でも何となく羨ましいと思った。

私は兄の色々が気になって、冷蔵庫をのぞいてみた。どうせ自炊はせず買ってきたものを食べるんだろうと期待していたけれど、中にはちゃんと野菜や肉やドレッシングなどが揃っていた。野菜ジュースが3本も買い置きしてあった。そんなに好きなのか。

私は冷蔵庫を覘いて突然、兄に晩御飯を用意しておいてあげようと思いついた。何といっても私は家庭科が5だ。それにたまにおじさんがやっている居酒屋でバイトをするし、母の手伝いもよくしている。

そういうわけで私は再び外に出て買い物に行くことにした。外はもう夜に近い夕方で、風が少し寒かった。東京には平気で街を外国人が歩いているし、高校生のスカートが短い。自転車が多くて、夜でも昼間のように明るい。そんなことを思いながら、あまり景気のよくなさそうなスーパーについた。

安かったので、晩御飯に関係のないバナナや剥き栗も買いたかったがやめておいた。必要なものだけ買い物をさっさと済ませた。ポイントカードやエコバッグは東京では当たり前らしい。帰り道、中学生のカップルが手をつないでいるのを見た。やっぱり東京は変なところだ。スーパーのおばちゃんはどれも所帯じみているが中学生は付き合っていて、外国人が普通に歩いているかと思いきや犬が服を着ている。

私は兄の帰宅時間から逆算して料理を作り始めた。家でするのと違ってキッチンが狭いし道具も限られているのでかなりやりづらかった。私が一人暮らしをするときはガスコンロが二つ以上あるところを選ぼうと決心した。途中のどが渇いたけれど、兄の野菜ジュースを勝手に飲んでしまうのは何となく気が引けたので水で我慢した。

兄は私の予想よりも少し早く帰ってきた。「あれ、何作ってんの?」「まあまあお客さん、もうちょっと待ってくださいよ~」と、さっきよりは砕けた感じで兄に接した。兄の方もバイト先のキムさんにまつわる伝説を話して笑わせてくれた。料理はうまくいって、「毎日作ってくれたらいいのに」と言ってくれるので、私は満足した。東京に来てよかったと思った。

食後テレビを見ていると兄に電話がかかってきた。「ちょっとごめん」と言って兄は部屋から出て行った。私はお笑いを見てクスクス笑っていた。

兄はなかなか戻ってこない。お笑いも少し飽きてきたのでボリュームを落として兄の会話に注意してみた。誰としゃべっているのかはよくわからないけれど、兄は何か弁明しているように聞こえた。

「・・・・・・から、しょうがないんだってば、ごめ・・・。明後日には・・・・・・てるからさ。そしたらまた・・・・・。うん、もちろん・・・・・・・・・だよ」

兄はきいたこともないようなやさしい声をしていた。何を話しているのかはわからなかった。しばらくして兄は部屋に戻ってきた。友達からの飲みの誘いだというようなことを言っていたけれど、本当かはわからない。

明日は俺は朝から人に会いに行くからまあ好きなように過ごしてくれ、と言って兄は寝た。同じ部屋で寝るのに私だけ起きているわけにもいかないので、私もすぐに寝た。