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歯磨き三四郎(リターンズ)

僕は、歯磨きという行為をほとんど毎晩行っている。

どうだ、偉いだろう。

努力や継続が嫌いなこの僕が、歯磨きはほぼ毎日行っているんだ。

歯磨きをしている間、また僕は抱きしめるという行為について考えていた。

最近よく自分が誰か女性と強く抱き合っている光景を想像する。

これは、僕が心細かったり酷く寂しくなったりするのを埋め合わせる、最大にして最善の方法であると確信している。

女性は裸であったり裸でなかったりするが、決まっていつもあたたかく、やわらかい。

でも、それはないんだよなぁと思い返して、止まっていた手が再び動き出し歯磨きが再開する。

女性のぬくもりについては大して妄想が膨らまなかった。

そもそも僕は妄想が下手なのだ。

想像力というのが著しく欠如しているのだ。

それに、女性について考えているとすぐ悔しくなってやめてしまう。

僕はThe WhoのSo Sad About Usが聴きたくなった。

Youtubeで検索してみて、ライブ映像を発見したのでボケッと見た。

前にも見たことがある映像だったが、この映像は好きだ。

この当時の観客というのはライブの楽しみ方をちゃんと知っている。

現代のように跳んだり跳ねたり(同じ意味だが)キャーキャー言ってるのは、本気で楽しめていないように思う。

手を叩いてリズムをとるのはバカのやることだ。

それに比べ、この当時の観客は踊っている。

腕を振り腰を振り膝を曲げ、自由に踊っているんだ。

周りの目なんて気にしない。

だってみんな踊ってるんだもん。

バンドの演奏そっちのけで踊りまくる姿は本当に楽しそうだ。

いつの間にか歯磨きが止まっていたことに気付いた。

歯をこする音は、他人からはそれほど大きく聞こえないが自分ではとてもうるさいのだ。

僕はほとんど毎晩歯を磨いているから、そういうちょっとした歯磨きに関する知識は知っている。

そのうちにバンドメンバーとメッセンジャーで会話したり、今度はThe Kinksの動画を見始めたりしていると、口の中のよだれがどんどん溜まっていった。

また女性と抱き合う絵を想像してみたが、僕の胸に女性の乳房が当たる感触をどうしても想像できなかったので、その絵はかき消された。

もういいと思って歯磨きをやめた。

口の中には大量のよだれが溜まっていて、気持ち悪かった。

そろそろ寝る頃かと思うが、寝る前に布団の中でもう一度、抱き合うことを考えてみるだろう。