のなめブログ

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恐ろしく長い一日(7)

次の試練は思わずすぐやってきた。 やっとの思いで家に着いたは良かったものの、家の鍵が見つからないのである。最後に鍵を見かけたのは麻美とのデートに出かける時に家の鍵を締めた時であった。つまりデートに行ってから今帰ってくるまでの道のりのどこかにあるか、よく探せばかばんの中に入っているかどちらかであった。だがかばんの中を探そうにも電気は消えていて全く見えなかった。インターホンをならし、ドアを叩いてもみたが家の中の者は誰も起きてこなかった。僕は光のある場所を探した。 大通りの方まで行くと、マクドナルドがあった。ありがたいことに24時間オープンだった。腹はいっぱいだが何か頼む必要があったので、シェイクを頼んだ。席に座り、かばんを開く。ペットボトルとボールペン、文庫本、スケジュール帳が入っていた。あとそれから、新品未開封のコンドーム。それ以外の何も入っていなかった。何度も何度も見たけれど、やっぱり鍵は出てこなかった。本当に、とことんツイていなかった。運の問題というべきか、むしろ僕がとことん情けない男なのだという風に考えた方が正しかった。運が悪くて鍵をなくしたのではなく、情けない男だからなくしたのだ。もうだめだと言いながら僕は席に顔をうずめた。シェイクは一口も飲んでいなかった。

「お客様、申し訳ございません。他のお客様のご迷惑になりますので、店内での居眠りはご遠慮ください。」

聞きたくなかった言葉を、まさかここで聞くとは思わなかった。目を覚ますと時計はもう4時47分をさしていた。僕を注意したのは、このマクドナルドの中でも結構地位の高そうな雰囲気の中年だった。

「すいません」

と言って僕は席を立った。シェイクは全て捨てて店を出た。 外に出ると、日はまだ昇っておらず空は暗かったが、もう新聞配達のバイクが走っていた。この時間の空気は冷たく、寒気で震えた。久しぶりに携帯電話を開くと、電池が切れていた。僕は行き場を失っていた。 道端の嘔吐物を見た。喧嘩する猫を見た。バス停のイスで寝るオヤジを見た。ランニングをしているおばさんを見た。キャバクラ嬢みたいな格好をした女がタクシーから降りてくるのを見た。空が明るくなるにつれて人が活動を開始していく様子がよくわかった。僕は行くあてもなく自転車を走らせていた。時刻は5時を回ったところだった。都の条例上18歳未満の青少年が保護者なしで外に出てはいけない時間を過ぎたのだった。