昔仲良くしていた女と電話した。
相変わらず出会いがなくて困っているのだと言っていた。
バイトの新人が使えない話とか、親が入院した話とか、ルーキーズはつまらないとか、僕が誕生日にあげた本を売った話などを、彼女が一人でべらべら喋るのを、適当な相づちをうちながら片手間で聞いていた。
驚いたのは、あれほど煙を嫌がっていた彼女がたばこを吸い始めたということだ。
5分という短い間の電話でこれだけの話が集約されたことも驚きだが、彼女がたばこを吸う姿を想像すると似合わなすぎて笑えた。
僕はその話に対しても別段大きな反応は見せずに電話を切ったが、その後たばこに対する激しい抵抗感が失われた。
たばこを吸う吸わないは僕の中でたいした問題ではなくなった気がした。
僕は二十歳なので合法的にたばこが吸えるし、酒の好きなバンドマンがたばこを吸わないという事実も、変じゃないといえば変じゃないが、おかしなことのようにも思える。
彼女はその昔、僕が吸わないことを知っているにもかかわらず僕にたばこの害を力説していた。
しかし電話では別にたばこの害について語ることもなく、いい面についても特には語らず、ただ「吸うようになった」という事実を僕に伝えた。
それはかなり自然なことのように思えた。
「病んでるから」とか「二十歳になったから」とか「人に勧められたから」というような理由づけはなく、ただ彼女はたばこを吸い出したのだと思った。
彼女は自然になったのだと僕は思った。
そういう話をしたわけではないけれど、話し方や何かが、昔と変わっていた。
しがらみや偏見がなくなっていて、丸くなったように感じられた。
僕は何だか安心した。
そしてキャスターマイルドを手にしていた。
僕は何となく、理由もなく、たばこを吸った。
という本当のような全部嘘の話。