昼から、たまにギターを爪弾きながら、そしてたまに優雅にテレビを観ながら、テスト勉強をしていた。
夕方父と母が帰ってきて、もう集中できなくなっていたので、気晴らしに父と出かけた。
あと、うちに住み着いている(飼っている)犬も。
出かけたというか、歩いてコープまで散歩してきただけなんだけど。
犬は店に入れないので、僕は犬とともに外で待っていた。
この犬は比較的誰が見てもかわいいと思うようにうまくできているので、店の前で僕と犬は、いや犬は、少し注目を浴びた。
比較的誰が見てもかわいいと思うようにうまくできているので、ついに話し掛けられてしまった。
僕はその話し掛けてきたお姉さんのあまりのアニメ声に思わず絶句して、「かわいいですね」と言われたのに「ははは」のみで返した。
アニメ声に絶句したというのはうそだけど、僕は自分の家で飼っている犬を見知らぬ若いお姉さんにほめられた場合どのように対処してよいものか、今までそういった教育は受けておらず、訓練を受けておらず、その心構えすらしたことがなかったことを悔やんだ。
どう考えてもまともな返答が思いつかなかった。
「そうなんですよ、僕よりかわいいから嫉妬しちゃう」とか
「そのアニメ声に比べたらたいしたかわいさじゃないです」とか
ろくな返答が思いつかなかった。
そして他の返答が思いつかないからこういう変な返答をしようかとも悩んだが、見知らぬアニメ声の若いお姉さんに面白い人だと思われても、僕にとっても彼女にとっても実益はないだろうとやけに冷ややかな気持ちになって、最終的に僕の口から出たのは「ははは」のみだった。
「この辺のコミュニケーション能力の欠如が人生において様々な機会を失わせる原因になるんだよなぁ」
という独り言をお姉さんが去ったあとに呟くでもなく心にとどめておいたんだが、それから何故か犬を利用した男女のアプローチを連想した。
そして僕は、「ああ、こういう姑息なアプローチの仕方が世の中にはあるんだな、用心しよ」と勝手にその出来事を勘違いして、そうこうしているうちに父が店から出てきたので帰った。
父のためにも、見知らぬアニメ声の若いお姉さんが犬をほめてきたら用心して、と警告しようとしたが、この出来事は自分の胸にとどめておくことにした。
日記じゃなくなった。