少し気持ちが悪い。
酒を飲むと酔っ払う前に眠気が襲い、眠気が襲う前にめまいがする。
数日前に知り合った2コ上の女性と、それからその元カレと、さらにその元カレの女友達と、僕。
一体どんな巡り合わせでこんな組み合わせが出来上がったのかよくわからないうちに、飲もうという話になった。
バイトを夜7時にあがって、僕はその2コ上の女性の住むアパートへと向かった。
僕は女の子の部屋にあがったことがない。
小学校低学年とかのころはそりゃ一回や二回くらいあったかもわからないけど、覚えてない。
何かの漫画みたいに、童貞が初めて女の子の部屋にあがって「ああ、いい匂いだなぁ」なんて言ってるところを想像していたけど、別にいい匂いはしなくて、普通によそん家のにおいがした。
フリーター、一人暮らし。
玄関、下駄箱、写真、掃除機、ペットボトル、下着。
え、下着??
いやいや見てない、下着なんか見てない。
他の二人が来るまで、僕らは二人きりで彼女の作った料理を食べながら待っていた。
パソコンはあるけどテレビがない家。
漫画はあるけど本がない家。
ゴロゴロしていたら、二人から飲み会が長引いてるから着くのは10時くらいになりそう、という連絡が来た。
暇やなぁ。
とりあえず二人でぐだぐだお酒をのみながら、僕は彼女の部屋を何か面白いものがないかあさり始めた。
彼女はおしゃべりなので常に僕に話し掛けてきて、僕はそれに少しめんどくさそうに対応しながら探索をしていた。
特に面白いものはなかったけど、この家に唯一存在する本として「毒キノコの育て方(中級編)」が発見された。
あと「貴方と私とパシフィック」というわけのわからないCDも出てきた。
コンドームと生理用品が出てきて焦った。
見てないことにしようと思ったがちょうど彼女に目撃され、笑われた。
それから少しまたお酒を加えながら談笑していたら、やっと二人が到着した。
すでにだいぶ酔っていて、二人とも赤い顔をしていた。
それからみんなで騒いでいた。
途中までボケッとしていたがそのうち僕も巻き込まれて騒いだ。
何故か楽しかった。
今日初めて会った人と、数日前に初めて会った人の家で飲んで騒ぐなんて僕からしてみたら考えられない。
わけのわからないお酒をたくさん飲まされたおかげでとうとう僕にも酔いが回ってきたが、他の三人ほどではなかった。
女性陣二人はかわいい感じの顔だが酔うと少し色っぽくなった。
僕がトイレから戻って来ると、合流組は寝ていた。
知らぬ間に年が明けていた。
また彼女と二人きりの空間が出来たけど、さっきとは違って彼女は酔って女になっていた。
やたらとボディタッチしてくるので焦った。
「ねぇ、膝枕していい?」
「え、いいけどそのまま寝ないでよ?」
「うふふ、かわいいなぁー」
膝枕とか初めてですよそんな。
てか僕よりあなたの方がかわいいすよ。
そのまま膝の上で寝やがったので、顔をいじって起こした。
そのとたんいきなり抱きつかれて、さすがに困惑した。
「もうこの細い体、離さないっ」
「く、苦しい」
苦しいというのは建前で、本音では「女の子の体ってやわらかいんだなぁ」とでれでれしていた。
「チュー奪っちゃお」
「ちょっ、だめ、だめ」
勃っちゃいかん、今勃つとすぐばれるから勃っちゃいかん。
「やりたいんでしょー?」
「だめだってば」
だめと言いつつもう抵抗はしていなかった。
「あたしの除夜の鐘、突きたくないの?」
それはさすがに可笑しくて、笑ってしまって、萎えた。
この女は本当に危険だと思って、水を飲ませてから僕は帰ることにした。
元日のこの時間ともなれば、外は誰も人がいないかと思いきやそうでもなかった。
ただびっくりするほど寒くて、今年一番の冷え込みなんじゃないかと思ったけど、今年は始まったばかりなのでそれは当たり前だった。
家に帰ってから思い出した。
彼氏いるのかきけばよかった。
あと、ちょっと惜しいことをしたなと思った。